家具や家電の並んだ店の片隅に、その少女はちょこんと座っていた。
 揃えた膝を両腕で抱えて、小さな身体をより小さくして。
 少し薄汚れた身なり。多分、前の持ち主に使い込まれた跡なのだろう。

 ふと、少女が顔を上げる。
 目が合った。

 俺は彼女の目の前まで来ると、腰を屈めて目線を合わせる。
 じっと自分を見つめる彼女の瞳の中に、彼女の顔を見つめる俺の顔が映り込んでいた。

「君は?」
 声をかける。
 彼女に反応は無い。
 ただじっと俺を見つめている。

 手を、差し伸べた。
 彼女に反応は無い。
 ただじっと俺を見つめている。

 やがて、ためらいがちに伸ばされた手が、俺の手に重ねられる。
 冷たくて、でも、どこか温もりを感じる。そんな温度だった。


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「……寒」
 時計のアラームが鳴るより早く、朝の冷気に起こされる。
 たったひとつのベッドを少女に譲り、俺は座布団と毛布で作った間に合わせの寝床で眠りについたわけだけれど、流石にこの時期は辛い。
 いつもよりだいぶ早い目覚めだが、これだけ体が冷えては寝なおす気にもなれず、洗面所に向かう。

 顔を洗って部屋に戻ると、少女もベッドの上で起き上がっていた。
「おはよう」
 少女はじっと俺を見つめて、それから思い出したように、こくりと頭を下げた。
「……それにしても、今日は格別に冷えるな〜」
 夜のうちに体内にしみこんだ冷気がなかなか引かず、俺は愛用のどてらを肩から羽織ってまだ体を震わせていた。
 と。

 芳香が鼻腔をくすぐる。
 おや、と思った時に、手の中に暖かなマグカップがあった。
 中にはなみなみと注がれたコーヒー。
 そして目の前に、マグカップを俺の手に触れさせている少女。

「……君が?」
 こくんとうなずく。

 口をつけてみると、コーヒーはちょうどいい温かさだった。
 ひとくちすすってみる。普段より少し甘みの多いコーヒーが、舌の上を流れて喉の奥へ吸い込まれていく。
 そして、体の中に、じわりと広がる熱。
 芯から温められるその快感に負けた俺は、マグカップいっぱいのコーヒーを、喉を鳴らして一気に飲み干した。

「ふぅ……ありがとう。おいしかったよ」
 礼を言うと、彼女も「どういたしまして」とばかりに、もう一度頭をぺこりと下げる。
 心なしか、口元がかすかに笑っているように見えた。
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