弾幕天使フランドール 第11話「留学生は弾幕怪人!? 悲痛なる乙女の叫び!」



 Aパートのあらすじ!
 紅月ふらんの通う学校にやってきた留学生の紅美鈴。
 だが彼女は、自己紹介の最中に「お前中国っぽいな」と言われたせいで、その場で「中国」というあだ名をつけられ、ずっと「中国」と呼ばれ続けていた!
 本名で呼ばれたいのにあだ名で呼ばれ続け、抑圧される乙女の心。そこに悪しき弾幕パワーが取り憑いて紅美鈴は弾幕怪人レインボーチュウゴクに変身してしまったのだ!
 果たして弾幕天使は、友の心を救うことが出来るのか!?

 ちなみに乙UNくんは彼女のあだ名については「どうでもいいんじゃない」と言っていた。




「ウオオオオオーン!」
 翡翠色のチャイナドレスを翻して、弾幕怪人レインボーチュウゴクの放つ虹色の弾幕が、悪鬼の形相で幻想郷のご町内を次々と破壊していく!
「うわー弾幕怪人だー!」
「中国っぽい弾幕怪人だー!」
「『中国』ッテイウナー! 名前デ呼ベー!」

「ひどい……なんて有様なの」
 目の前に広がる、日頃見慣れた町並みの変わり果てた姿に、紅月ふらんは息を飲む。
 そして、その中心に変わり果てた姿のクラスメート見つけて、少女は小さな胸に苦いものを感じた。
 ふらん自身も彼女を「中国」と呼んでいた。彼女があのような姿になる原因の一端を担ってしまっていたのだ。
「……悪いのはあの子じゃない。あの子を『中国』と呼んでいた私たち。
 だから、私は絶対に貴方を助けなきゃいけない。貴方の心を、悪の弾幕から解き放ってあげなければならない。
 待っててね……中国ちゃん!」
 だからそれがダメなんだって。

「スカーレット・メタモルフォーーーーーーゼ!!」
 魔法のステッキをふりかざして、紅月ふらんが弾幕天使フランドールに変身する!
 11話にもなれば、すっかり使い慣れたバンクシーンだ!

「弾幕天使『フランドール・スカーレット』……降臨!
 そこまでよ、弾幕怪人レインボーチュウゴク! 幻想郷の平和を守る、この紅の弾幕天使フランドールが、貴方の狼藉を許しはしないわ!」
「ウルサーイ!!」
「うわぁ!?」
 フランドールの足下で、何色もの宝石弾が炸裂する。少女は慌てて後退すると、改めて魔杖スカーレットステッキを弾幕怪人に向けて構え直した。
 だが、少女に余裕を与えず、レインボーチュウゴクはさらに弾幕を放つ。赤、青、黄色と様々な色に輝く弾は重厚にして緩急自在! フランドールもよけることに専念せざるをえない!
「なんて弾幕なの! 隙間が狭い上にぼやぼやしてると後ろから別の弾が来る……しかも、気を抜けば心を奪われてしまいそうな、美しくて派手な弾幕だわ!」
 美しい弾幕は見る者の心を捕らえ、その虜にしてしまう! その心のエネルギーこそが弾幕怪人の活力となる。
 物陰に隠れながらフランドールが周囲を確認すると、もう何人ものギャラリーが心を奪われてしまっていた。
 このままでは多くの人が、あの弾幕怪人の犠牲になってしまう。それを阻止する為にも、一刻も早く彼女自身を解放してやらなければいけない。
「でも、あの弾幕の中に飛び込んだら、近付く前にこっちがやられちゃう。どうしたら……」
 焦る心を必死で抑えながら、フランドールは頭の中を大回転させて考える。。なんとか、接近するまで相手の意識を逸らす方法がないだろうかとうなっていたその時。
 悲痛な叫びが聞こえた。

「名前デ呼ンデ下サ〜〜イ!!」

「……そうか。その手があったわ!」
 フランドールは立ち上がる。
 その片手に、一枚のスペルカードを握り締めて。


「もうやめて!」
 惨劇の現場に響く、幼い少女の叫び声。
 レインボーチュウゴクはそちらを振り向く。
 そこには、彼女が紅美鈴であった時に一緒のクラスだった、紅月ふらんの姿があった。
「お願い。もう、こんなことやめて……。
 私、知ってるよ。貴方は本当は、こんな酷いことしない、心の優しい女の子だって。
 飼育係の当番だって、すごく嬉しそうにやってたじゃない。学校のうずらをあんなに可愛がって……。
 一匹一匹、名前を付けて呼んでたでしょ? 凄いよね。私じゃ見分けもつかないのに」
 ふらんは恐る恐るといった足取りで一歩、レインボーチュウゴクに向かって踏み出す。
 そこにいるのは弾幕怪人。ひとたび腕を振るえば、少女は為す術もなく吹き飛ばされてしまうだろう。
 けれどもふらんは、ゆっくり、ゆっくりと、近付いていく。
 そして弾幕怪人は――ただ立ちつくして、自分に近付いてくる少女を見つめている。
「私、知ってるよ。朝一番で教室に入って、クラスメートひとりひとりに挨拶してたよね。
 早く自分に打ち解けてもらう為に。早くみんなと仲良くする為に、そうしてたんだよね。
 貴方は、そんなに優しい女の子なんだから……だから、もう、こんなこと、やめよう……。
 お願いだから、正気に戻って……」


「中国ちゃん!」
「中国ジャネエーーーー!!」


 地面を踏み抜かん勢いで震脚を踏み、スペルカードを高々と掲げて、弾幕怪人の放った彩符「彩光乱舞」が小さな少女を情け容赦なく吹き飛ばす!
 ギャラリーからも悲鳴が上がった、その時!

「行け、2号、3号!」

 物陰から飛び出した二人の紅月ふらんが、弾幕怪人の両腕をがっしりと掴む!
 そして出来上がった無防備な背中に向かって、猛然と突進する……弾幕天使フランドール!
 そう、これこそ自分の分身を三体作り出すフランドールのスペルカード、禁忌「フォーオブアカインド」!!

「弾幕怪人め、終末の業火に焼かれ消え去るがいいよ! 禁忌『レーヴァテイン』!!」
 フランドールの構えたステッキが、真紅の炎に包まれ!
「スカァァレットォ・ストライクッ!!」
 弾幕怪人レインボーチュウゴクを……紅美鈴という名の少女に取り憑いた悪しき弾幕パワーを、両断した。




「――――ちゃん、大丈夫?」
 優しく肩を揺する手を感じて、美鈴はゆっくりと目を開ける。
 クラスメートの、紅月ふらん(本物)が、心配そうに自分を見下ろしていた。
「あ、あれ? 私……」
 元の可憐な容貌を取り戻した少女は、きょとんとした顔をしながら上半身を起こす。起こしてから、自分が今まで寝ていたのだということに気付いた。
「……え? あれ? いったいどうしてたの?」
 美鈴は困惑した顔できょろきょろと周囲を見回す。
 悪しき弾幕パワーに取り憑かれて弾幕怪人となった者は、解放されればその間の記憶を無くす。
 それはレーヴァテインが悪い記憶を一緒に焼き払ってくれるからなのだが、ふらんは魔杖の力に感謝した。この心優しい少女が自分のしたことを覚えていたら、きっと罪の意識で胸を潰してしまうだろう。少しくらい潰しても残ってそうだけど。
「どうもしてないよ。ちょっとロイヤルフ……じゃなくて、太陽の光にやられちゃってたみたい」
「そうなの?」
 美鈴の問いに、ふらんはうん、とうなずく。
 幻想郷の人たちは弾幕戦闘の巻き添えになるのも割と慣れっこだから、誰も美鈴を責めたりはしない。
 だから今日の事は、ふらんが自分の胸の中にしまっておけばいい。それだけ。
 ……目の前の少女ならもうちょっといっぱいしまえそうだとか、そんなことは考えない。たぶん。

「ごめんね」
 二人の少女が立ち上がったところで、美鈴が小さく、頭を下げる。
「え? え? どうしたの? 私、謝られるようなこと、何もしてないよ?」
「でも、倒れた私のこと、ずっと見ててくれたんでしょ?」
 ああなるほど、とふらんは頭の中でうなずいた。そう言えば、そういうことにしてあるのだった。
 だから少女はにっこりと笑うと、ううんと首を横に振る。
「そういう時は、ありがとう」
「……うん。ありがとう、ふらんちゃん」
 美鈴がちょっと恥ずかしそうに、もう一度頭を下げる。ふらんは今度こそその礼を受け取って、うんとうなずく。
 そしてふらんは、ちょっと神妙な顔になって、美鈴に深々と頭を下げた。
「私の方こそ、ごめんなさい。嫌がってるって知ってたのに、ずっと『中国』って呼んでたこと」
「あ……」
 美鈴は最初、悲しそうな顔をして、それから困ったように眉を八の字に曲げて、最後に――笑顔を見せた。
「ううん。もういいよ」
「え? そんな、良くないよ。だって……」
「さっき私のこと、名前で呼んでくれてたでしょ?」
 顔を上げたふらんが、あ……と声をもらして視線を逸らす。彼女の――彼女達の名と同じ色が、少女のふっくらした頬をさあっと染めた。
「だから、それはもう言いっこなし。ね?」
「……うん」
 まだ顔に少し照れの色を残しながら、ふらんは美鈴に向かって、そっと手を差し出した。
 横を向いた手のひらは、握手のサイン。

「せっかくのクラスメートなんだから、仲良くしようね」

 差し出された手を、美鈴はしっかりと握って、虹のように鮮やかな笑顔で、

「そうだね……これからもよろしく、ふらんちゃん」

 ふらんも美鈴の手を握り返すと、向日葵のような満面の笑顔で、




「これからもよろしくね、みすずちゃん!」




 中国語ってむずかしい。



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